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最高裁判所第三小法廷 昭和42年(あ)1988号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人羅在徳を懲役六月に、被告人一杉環を懲役一〇月に各処する。

被告人両名について、各弁護士法違反教唆の点は無罪。

理由

被告人羅在徳の弁護人伊藤利夫、同足立憲英の上告趣意は、量刑不当、単なる法令違反の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

被告人一杉環の弁護人持田幸作、同新井旦幸の上告趣意は、判例違反を主張するが、引用の各判例は、いずれも、本件と事案を異にして適切でないから、所論はその前提を欠き、その余は、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、適法な上告理由にあたらない。

同被告人の弁護人荻原静夫の上告趣意は、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

同被告人の弁護人田中政義、同田中学の上告趣意は、憲法三一条違反を主張する点もあるが、実質は、単なる法令違反の主張であり、その余は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

しかしながら、所論にかんがみ、職権をもって調査すると、第一審判決の認定判示した罪となるべき事実のうち、判示三の(1)および同四の事実は、いずれも、被告人らが、自己の法律事件の示談解決を、弁護士でない者に依頼し、その報酬を支払ったというものである(被告人羅については、中京いすずモーター株式会社のための事務管理として、管理者たる自己の法律事件の解決を依頼したものとみることができる。)。そして、第一審判決は、右事実につき、弁護士法違反の教唆の罪が成立するとし、原判決の判断もこれを是認しているのである。

ところで、弁護士法七二条は、弁護士でない者が、報酬を得る目的で、一般の法律事件に関して法律事務を取り扱うことを禁止し、これに違反した者を、同法七七条によって処罰することにしているのであるが、同法は、自己の法律事件をみずから取り扱うことまで禁じているものとは解されないから、これは、当然、他人の法律事件を取り扱う場合のことを規定しているものと見るべきであり、同法七二条の規定は、法律事件の解決を依頼する者が存在し、この者が、弁護士でない者に報酬を与える行為もしくはこれを与えることを約束する行為を当然予想しているものということができ、この他人の関与行為なくしては、同罪は成立し得ないものと解すべきである。ところが、同法は、右のように報酬を与える等の行為をした者について、これを処罰する趣旨の規定をおいていないのである。このように、ある犯罪が成立するについて当然予想され、むしろそのために欠くことができない関与行為について、これを処罰する規定がない以上、これを、関与を受けた側の可罰的な行為の教唆もしくは幇助として処罰することは、原則として、法の意図しないところと解すべきである。

そうすると、弁護士でない者に、自己の法律事件の示談解決を依頼し、これに、報酬を与えもしくは与えることを約束した者を、弁護士法七二条、 七七条違反の罪の教唆犯として処罰することはできないものといわなければならない。しかるに、本件において、被告人らにつき、弁護士法違反教唆の罪の成立を認めた原判決には、法令の解釈適用をあやまった違法があり、右違法は、判決に影響を及ぼすことが明らかであって、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。

よって、刑訴法四一一条一号により、原判決を破棄し、同法四一三条但書により、被告事件についてさらに判決をすることとする。

原判決の確定した事実のうち、被告人羅在徳に対する弁護士法違反の点は、弁護士法七二条、 七七条、刑法六〇条に、被告人一杉環に対する恐喝の点は、刑法二四九条二項に、窃盗の点は、同法二三五条、 六〇条にそれぞれ該当するので、被告人羅在徳については、所定刑中懲役刑を選択してその刑期の範囲内で同被告人を懲役六月に処し、被告人一杉環の以上の行為は、刑法四五条前段の併合罪の関係になるので、同法四七条本文、一〇条により、犯情の重い判示恐喝の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一〇月に処する。なお、被告人両名に対する弁護士法違反教唆の各事実は、前述のとおり、いずれも罪とならないので、刑訴法四一四条、四〇四条、三三六条により無罪の言渡をすることとし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美)

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